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私立学校法人のガバナンス改革について

(公財)公益法人協会 副理事長 鈴木 勝治

1.面妖な話である。
昨年12月3日に、文部科学省の「学校法人ガバナンス改革会議」
(以下、単に「改革会議」という。)により検討され、文部科学大臣あてに提出された「学校法人ガバナンスの抜本的改革と強化の具体策」が、関係筋の反対等もあり、文字どおり舌の根も乾かない本年1月12日より、文科省の既存の別機関を使って、「学校法人制度改革特別委員会」(以下、単に「特別委員会」という。)で再検討されるとのことである。

もともと各種の問題※のあった改革会議ではあったものの、一応の答申が出たにも関わらず、別の会議体で再検討するというのは、私の知る限り前代未聞である。
このような事態になぜ至ったのかは、各種の裏事情があったとしても問われるべきと思うが、改革会議の検討に参加した人々の人選の不適切さや審議の過程・方法の拙劣さ等を目の当たりにすると、感覚的に言えば、日本全体の劣化がここまで来てしまったかという感が否めない。

もっとも、不体裁で格好は悪くとも、新しい特別委員会で適切な人々により、キチンとした検討がなされるならば、災いを転じて福となす例えのとおり、まっとうな方向に向かう機会が生じたという安ど感も生じないわけではない。

※問題点については、枚挙にいとまがないが、個人的には次の諸点が重要であると考えている。
① ガバナンス改革と銘打っているが、私立学校の不祥事ばかりが取り上げられ、ガバナンスに本来期待される前向きの目的や効果・成果についての議論が(少なくとも最初の段階では)されず、最後に一般論として触れているにとどまること。
②  現役の学校関係者がほとんど検討に参加しておらず、公認会計士や弁護士といった学問の研究や学校教育に見識を持っているとは必ずしも見受けられない人が、相対的な多数を占めていること。
③  ガバナンスの理想を株式会社や公益法人の制度を唯一のモデルとしており、
学校法人にふさわしいガバナンスは何かといった根本的に必要かつ重要な検討がなされていないこと。

2.唯一大きな意義があったのは、会議の実際の模様がYouTubeにより公開されたことであった。

学校法人のガバナンス改革が、先進とされている公益法人制度をモデルとしていること、ならびにその検討成果が公益法人制度に逆に影響を及ぼすと思われることから、11回の各2時間にわたる公開会議のすべてを視聴した。
その結果、この会議の実際の議論の仕方や内容、さらには参加者の感情や表情等をつぶさに見ることができた。
この視聴により、まことに僭越ながら、この程度の検討で私立学校のガバナンスのあり方や制度が決定されるとしたら、日本の学校教育というものが今後どうなっていくのかと、暗澹たる思いに陥った。
 
言うまでもないが、ガバナンスを効果あらしめるのは、決して箱物である制度をいじることでは必ずしもなく、実態を広く国民やステークホールダーに情報公開することであるというのが最近の常識である。

今回のYouTubeによる審議の公開もまさにこれにあたるものであり、公開により審議会の検討過程やその結果が白日のもとにだされ、国民や関係者の関心を呼び、多数の意見や賛否が提出されることにより、世間一般の了解も得られると同時に、関係当事者において恥ずかしくない対応をすることが期待されるという循環になると思われる。

3.さは然りながら、制度として適切な構造を構築することも実際の運営上は必要なことであり、12月3日に提出された答申は、評議員会の権限の強化を図ることにより、ガバナンスを利かすことが肝となっている。

これは、公益法人制度(とそれに倣った社会福祉法人制度)のほとんどをコピーしたものであり、そのことは、答申案において、「各機関に関する定めの相当部分は、一般法人法における規律に倣ったものである。」と記載していることから明らかである。

しかし、モデルである評議員(会)制度については、この制度を実際に運用している公益法人関係者の一人である私は、次のような問題点が内在していると考えている。
その詳細を記すことは、紙面の関係もあってできないが、主な点を箇条書きすれば以下のとおりである。

(1)その最大のものは、評議員の法人における存在の正統性(legitimacy)の問題であり、
平たく言えば、なぜ評議員が強力な権限を保有できるかという理由付けである。
国会議員であれば、国民の代表として選挙で選出されており、社団法人の理事であれば、その成立の基盤である社員(総会)において選ばれている。
評議員については、その基盤がなく、したがってその選出方法も法律に規定されていない。

(2)公益法人制度改革においても、この問題は当然のことながら意識されたが、
未解決のままであり、関係者において非充足感として底流に残されており、時々マグマのようにその不満とそれに伴う問題が噴き出ている。
加えて、現行の一般法人法においては、高度の権限を持ちながら、評議員がほとんど責任を負わないという法律構成になっており、益々その不満足感が否めないものとなっている。

(3)なお、学校法人のガバナンスにおいて、公益法人と同じモデルを使うことの妥当性も考えるべきであると思う。
改革会議において、一部の委員から、法人の目的はそれぞれ違っていても、ガバナンスの手法は一つであるという発言があったが、目的が違えば手段が異なる
というのが常識的な考えではないだろうか。
学校法人と公益法人では、公益活動という点では同一であり、財団法人という器は使っていても、抑々社会的な役割が異なるし、法人設立の動機や歴史も違い、
そのステークホールダーの複雑さも比較にならない。
したがって、学校法人のガバナンスを検討するにあたっては、公益法人制度のコピーということではなく、上記の差異を十分考慮に入れた適切な方式を考えるべきと思うが如何であろうか。

4.終わりに、次の諸点も考慮されるべきであろう。

(1)まず、特別委員会の結論(ないしは仮結論)に対するパブリック・コメントの実施である。
改革会議においても、当初からそれは予定されていたが、委員の一部の強力な反対により、実行されなかった。
そこでは、パブコメを実施する法律的な根拠といった形式的な点が議論されたが、国民の意見を聞くといういわば情報公開と同様の機能を持つ良いことを行うのに、法律的根拠云々の議論は不要であり、当然実施すべきであろう。

(2)次に関係者からのヒアリングの範囲の拡大である。
改革会議では学校関係者からのヒアリングすらおざなりのものであったが、特別委員会ではメンバーの交代によりそれが改善されている。
しかし、新規まき直しの特別委員会では、さらに学校法人という広範なステークホールダーを抱えている組織においては、さらにそれらに拡大していくべきであろう。
また、仮に改革会議と同様に公益法人制度をモデルとし、評議員会を改革の切り札にするという議論になるならば、公益法人や福祉法人の関係者からもその実情を聴取すべきであろう。

(3)最後になるが、特別委員会においては、教育という百年の大計を立てるのに急ぐ必要はないことから拙速な議論を避け、丁寧な議論を要望したい。
① 改革会議でもその萌芽があったが、日本の大学の国際的な地位の低下への対処の議論であり、それが大学の選別(triage)を伴っても大胆に実行すべきであろう。
② また、改革会議の報告では、「規模に応じた取扱い」がガバナンスに限り示されているが、このような細かい配慮が必要であり、一律の適用は小規模法人の疲弊をまねくものであって、百害あって一利もない。
③ 学校法人制度の改革は、他の非営利法人制度全体に影響を及ぼすものであり、慎重かつ深く検討され、その模範となるような形を期待したい。