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異次元の少子化対策

(公財)公益法人協会 理事長 雨宮 孝子

このところ岸田政権は、インパクトのある政策タイトルを示すことが多い。 次元の異なる少子化対策の実現とは、どのような政策のことを指すのであろうか。

もともと、昭和22(1947)~24(1949)年の第1次ベビーブーム中の 昭和24年では269万6千人、昭和46(1971)年~49(1974)年 第2次ベビーブーム中の昭和48(1973)年では209万人の出生者がいたが、 令和4(2022)年では77万人と80万人を切った。 同年の合計特殊出生率は1.26人(人口の維持には2人以上が必要)。 確実に出生人数は減少してきている。 このままの状況で出生数の減少が続けば、我が国の少子化傾向を大幅に反転することは不可能で、 2030年までの6~7年が重大な時期ということもできる。 政府は、本年6月に異次元の少子化対策の中身として加速化プランを「こども未来戦略方針」と位置付けた。

出生率の低下は、経済力の低下、ひいては国力の低下につながることはだれでも理解できる。 ここで出生率をどう上げるか、我が国は、かなり前からすでに少子化の現状を把握していて多くの対策を行った。 1994(平成8)年から30年間で40本以上の少子化対策関連の施策(少子化社会対策基本法、子ども-子育てビジョン、待機児童解消加速化プラン、こども家庭庁の設置、 こども基本法の制定等)が次々と実施されているが、その成果が現れていない。

多様化の時代、ジェンダー不平等、女性の晩婚化、女性の社会進出、共稼ぎ夫婦が常態化している中で、少子化を打開する政策として、若い世代の所得を増やす、児童手当の増加、保育所や保育士の増員など 多くの施策が鳴り物入りで取り入れられている。 もともと日本の伝統である家父長的家族制度がその根底にあり、だれでも安心して家庭を作り、 子育てができる社会の実現には基本的には、女性の役割負担に依拠する政策となっている。

「少子化対策基本法(平成15年法律133号)」には、事業主の責務として、 国、地方公共団体が実施する少子化の施策に対し協力し、必要な雇用環境の整備に努める。 国民の責務として、家庭や子育てに夢をもち、かつ、安心して子どもを生み、 育てることができる社会の実現に資するよう努めるものとすると規定されている。

それに対し「こども基本法(令和4年法律77号)」では、日本国憲法と国連こども権利条約 (1989年の国連総会で、こども権利条約が採択されてから30年以上が経過)に基づき、 こどもの人権に配慮したものになっており、本年4月には、こども家庭庁が発足した。 公表された基本理念には、1)若い世代の所得を増やす、2)社会全体の構造・意識を変える、 3)すべての子育て世帯を切れ目なく支援する。

現在、3)について加速化プランを実現する措置として「こども誰でも通園制度(仮称)」を創設し、 親が就労していなくとも1か月10時間、未就学の子どもを保育園に通園できることを考えて、 来年から本格的に始動するようである。 ただし、保育士の不足や、空いている保育園がないなど実施が難しいし、推進団体からは、 1週間に10時間見てほしいとの要望がある(認定こども園・子ども  子育て政治連盟)。 なお、「加速化プラン」の事業費は、3年間で3.5兆規模と算定し、財源は、社会保障の 歳出改革等と政府は発表している。 これに対しては、社会保険の財源は、主に加入者や事業主が納付する者で、その保険料を上げて、 増収分を子ども予算に回すのは疑問という声も大きい。

多様性の時代、様々な個性を生かした、そしてすべての国民が等しく義務を果たし、 平和で安定した社会に住む権利を享受するには、いろいろな場面で改革が必要である。少子化を改善するには、目先の改革だけでは足らず、国の在り方をどうするか、 100年単位で我が国の進むべき将来像に向けての社会、政治、経済、文化、環境問題、 国際・歴史問題を配慮した将来像を考えることが重要である。 軍事・経済大国にすべきか、すべて中庸で平和に穏やかに過ごすのか、多様な選択肢があるであろう。

個人的な話題で恐縮だが、私も結婚し、男の子が一人いるが、研究や講義、社会活動を行うには、保育所や学童保育の利用はもちろんのこと母や姉たちの助けを借りた。子供が病気の時が一番困った。 相手先に子供の病気を理由に断りの電話をかけようとした私に、先輩の女性ジャーナリストが、「仕事ができない理由を子供の病気にしてはいけません。そういう時は自分の体調が悪いからと答えなさい。」と アドバイスをいただいた。 とても優秀なジャーナリストでも、男社会の中で伍していくには、いろいろご苦労されたのだと感じた。

多様性の中で自由な発想で事業ができる公益法人ならばできることが多くある。 女子学生のための奨学金、留学費用の支給などがあげられる。 先日、(公財)秋山記念生命科学振興財団の贈呈式に出席した。2023年から新たな事業が実施された。 創立者の秋山喜代氏記念賞であり、その目的が素晴らしかった。「女性が輝く社会の実現」である。 このように言い切れる素晴らしい社会の実現に大いに期待したい。

*参考文献:浅井春夫「「異次元の少子化対策」では少子化は解決しない」(月刊『住民と自治』2023年9月号 自治体問題研究所)



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