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「正しさ」の追求について

(公財)公益法人協会 理事 谷井 浩

現在、「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告の中で、 「全ての公益法人に対し、公益目的事業会計、収益事業等会計、法人事業会計の区分経理を求める。」 但し、「小規模法人等に於ける区分経理の負担を軽減する方策について検討する。」とされ、 我々公益法人は「小規模法人等」とは何か、「負担の軽減」とは何か、を実務上の 極めて重要な課題と認識している。

以下は、筆者の超私的経験。お付き合いください。

小学5年生の時、家庭科でカレーライス調理実習があった。 クラスの班毎に料理するので、各人が分担(Aさんはお肉、Bさんはカレールー等)を決める。 上田さん(女子。仮名)が「私、お鍋持って来る。」と真っ先に言って、後はそれぞれ分担が決まった。 僕の分担はニンジン、それと会計係になった。 カレーライスは美味しく出来て(まあ失敗する方が難しい)、翌日、精算をすることになった。 「平均」の概念やその計算方法を習っていなかった会計係の僕は、どうやってお金を割り振れば、 公平で正しいのか? 必死に考えて、最終的に「平均」の概念に辿り着き、 「お肉を買ったAさんと、ルーを買ったBさんに払わなければならないから、僕は〇〇円出す。  Cさん□□円出して。上田さん◎◎円出して」と、 自分の配分方式に絶対の自信を持って(少し得意になって)割り振っていった。 もちろん、お鍋をもって来た上田さんが払う金額が一番高くなる(減価償却の概念などある訳無いし)。 上田さんが言った「私、払えない」。 僕は自分の計算方法が非難されたと思って、ちょっと怒り気味に当該方式の正しさと公平さを 上田さんはじめみんなの前で理路整然と論証・論駁した。 上田さんがまた言った「私、払えない」。 僕は棒グラフを書いて一生懸命説明した(公平の正義感と論理の狂気に駆られて) 「どうして分からないのか!!」。 上田さんは、最後に泣き出した。 数年たって、僕は自分を恥じたが、上田さんに会う機会は無かった。

ごめんね。上田さん。 彼女は、僕の理屈を分かっていても、その時、お母さんと喧嘩して「お金頂戴」って言えなかった、 あるいは、御家庭の深刻な事情があったのかも、 (だから最初に「私、お鍋持って来る。」と言ったかも)しれなかった。 僕は、自分の計算方法が公平で正しいと今でも思っているけど、論理を振りかざして説得する前に、 払えない理由を考えたり、精算を少し待っても良かった。

ある識者の御指摘のように、金額平均的な公平だけでなく負担力に応じた公平等も 累進課税制度はじめ、世の中には存在することや、何よりも、やろうとしても出来ない人の理由を、 心でも感じ取り、「正しい」解決方法に加えて「上手い」解決方法を見出すことが、 大人にとって(小学生の会計係にとっては無理だったかも。)大事ということが、今なら分かる。

「小規模法人等」とは何か、「負担の軽減」とは何か、を考える時、上田さんのことを思い出していきたい。



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