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財務三基準の罪と罰

(公財)公益法人協会 副理事長 鈴木 勝治

1.「政府広報オンライン」によれば、新しい資本主義の実現に向け、成長も分配も実現するため、あらゆる政策を総動員するこ ととなっている。
 その一環として、成長の果実を従業員に分配し、それが未来への投資の原動力となり、更なる成長に繋がる好循環を作ることとされている。このために「賃上げ税制」に取り組み、大企業や中堅企業については、従業員の給与を前年度比3%以上引き上げることを最低条件として、法人税から差し引く控除率が大幅に拡充されている。
 このこともあってか、トヨタ自動車はじめ大手の企業が本年度の春闘において賃上げとボーナスの満額回答の方針を示したといわれている(日経新聞やNHKニュース等の最新号等による)。

2.以上のようなある意味景気の良い話に対し、非営利法人、なかんずく公益法人の世界はどうであろうか。
 上記1.のような法人税の優遇は、公益法人には基本的には関係なく、また、政府やマスコミの賃上げについての報道もないことから、引き上げの状況は分からない。
 したがって、当協会の現状に限って参考までに申し上げれば、賃上げの計画は基本的には建てられていない。その理由は以下のとおりである。
 
(1) 賃上げするためには、現状の経常収益を大幅に拡大するために、何らかの新機軸を打ち出すか、会費や個々の事業収益であ  る出版物の値上げ、セミナー代の引き上げ等が必要となる。しかし、後者はコロナ禍により痛手を被っている顧客の大宗をしめる公益法人に対しては困難であり、また公益法人支援を モットーとしている当協会のとるべき方策とは思われない。
(2) 企業であれば、保有が許される内部留保が通常存在しているが、当協会は当初の出捐金が少なかったこともあり、それは皆無に等しいことから、これを取り崩して対応することもできない。いわば無い袖は振れない状況にある。
(3) 財務的には借入金や寄附金、助成金に頼るということも考えられるが、前者は公益法人ではご法度とされており、後者についても公益目的事業に充てるならともかく、職員の賃上げに充てることは、公益法人である限りあり得ない。

3.このように、私共のような会員組織をベースとしたインターミディアリーである法人の特殊性はあるとしても、公益法人一般が賃上げを行うことは容易ならざることと推測される。
 しかし、このような状況は、現行の(1)収支相償原則、(2)遊休財産規制、ならびに(3)公益目的事業比率という財務三基準の罪というべきものに起因する部分も大きいと言えるのではないか。
 すなわち、
(1) 収支相償原則によって一定の利幅を確保する経営ができないことから、職員への給与等についてもベースアップ等を行う蓄積や余裕がほとんどないこと。
(2) 内部留保が1年分の事業費相当額におさえられている結果、公益目的事業を拡大することすら財務的に困難であり、百年一日のごとく当初定められた公益目的事業経営を強いられていること。  
(3) その結果、新機軸を打ち出し、増収増益をはかることも困難であり、小幅な改善・改良を行うに留まること。

4.以上悲観的なことばかり述べたが、さらにいえばこのような賃上げもできず、実質的には縮小均衡が続くとすると、公益(非営利)法人界に有為な人材が集まらず、また法人の内部に財産の蓄積ができない結果、公益認定法第1条が想定していた「公益の増進及び活力ある社会」の実現はますます遠のくではないか。

 このような財務三基準規制の結果として、いわば罰ともいうべき現象が起きることについて、当局も含めその対策を真剣かつ根本的に考えないと、日本が成長するどころか、全体としてますます縮小かつ劣化していき、経済的にはともかく、活力のない、人々の幸福や文化的・学問的に世界的視野からみれば2流、3流の国に陥るのではないかと個人的には恐れているが、如何であろうか。


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