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震災・復興と伝統文化のレジリエンス

(特活)「環境・持続社会」研究センター代表理事、國學院大學客員教授 古沢 広祐
東日本大震災から15年、熊本地震から10年、能登半島地震から2年の歳月が流れた。
とくに大震災に見舞われた三陸沿岸部の東北地方は、古来より神楽や祭事といった伝統芸能が人々の暮らしと深く結びつき、脈々と受け継がれてきた地域である。
震災という未曾有の危機を経て、私たちが改めて気付かされたのは、人々の暮らしの基底にある「歴史・文化的な水脈」が持つ力であった。

鎮魂から再生の原動力へ

震災直後の被災地では、祭りなどの行事を行うことに対し「不謹慎ではないか」という自粛ムードが漂っていた時期があった。
しかし、時を経ずして各地で復活の動きが伝播していったのは、東北の祭事の本来的意味が「蘇生」したからに他ならない。
もともと東北地方は厳しい気候風土にあり、冷害や飢饉、疫病といった苦難を幾度も乗り越えてきた土地柄である。
そこでの祭事や郷土芸能は、失われた尊い生命に対する「鎮魂」や「供養」という、切実な祈りを込めた「鎮め」の儀式であった。
津波によってすべてを流された人々が集う場で舞われる神楽や虎舞、鹿踊りなどの姿には、過去と現在の鎮魂の想いが重層的に表出していた。
復興を祈願する祭事に参集し、涙と笑顔が交錯する中で醸成される一体感は、まさに魂の深層に引き継がれてきた共感の再生であったといえる。

社会関係資本(ソーシャルキャピタル)としての伝統芸能

こうした文化的な力は、単なる精神的な支えに留まらず、地域社会の基盤を強化する「社会関係資本(ソーシャルキャピタル)」としても機能している 。
ここには二つの重要な側面がある。
第一に、地域内部の結びつきを強固にする「結束型」の紐帯である。
震災という個人の力を超えた事態において、自己の表層的な殻を突き破り、地域の歴史的・伝統的な蓄積とつながることで、人間は絶望から立ち上がる力を得た。
第二に、地域を超えて広がる「橋渡し型」の紐帯である。
ローカルな伝統芸能が発するダイナミックな力は、支援のネットワークの結節点となり、幅広い世界から注目を集める共感の輪を広げた。
狭い地域性に閉じることなく、多様な人々をつなぐメディアとして祭事が機能した事実は、極めて意義深い。

現代社会に突きつけられた問い

現在、私たちは自然災害のみならず、紛争や格差、テロといった「存在の危機の時代」に生きている。
深刻な危機に直面したとき、私たちはどうあるべきか。
三陸の被災地が示したのは、自己の狭い枠組みを超え、人間存在の基底にある伝統や自然との共生を問い直す姿勢であった。
伝統文化は決して過去の遺物ではない。
それは、人間が困難を乗り越えるための「サステナビリティ(持続可能性)」と「レジリエンス(復元力)」を紡ぎ出す、生きた知恵である 。
震災から15年、被災地から学び、共有すべき教訓は、今なお私たちの未来を照らす光として輝き続けている 。