(公財)かめのり財団 常務理事 西田 浩子
昨年、公益法人協会主催のシンポジウムに登壇し、その中で、 公益法人界のこれからの成長について、日本の中で非営利セクターが どれだけ子どもたちに知られているかが重要で、子どものうちから 公益法人に関心をもってもらい、その活動に参加していると、 将来寄付やボランティアにつながるのではないか、と述べました。
実は、子どもたちはこれからの社会の担い手であるのに、 (地球)市民の意識が欠けており、与えられるばかりで、 自らが社会を作り、参画する意識が希薄であることを懸念しています。 ですから、そのために教育現場で非営利団体の活動や存在を知る場を 与えてほしいと思っています。 ただもちろん、子どもだけの話でなく、多くの一般の方々に対しても同様です。
現在、寄付にとどまらず、経済的リターンと社会的・環境的な効果を 同時に生み出すことを意図するインパクト投資など、投資を組み入れた 多様な資金提供を用いて、社会的インパクトの創出にこだわる流れが 世界的な広がりを見せています。 世界では、ビジネスで成功した方々が次々に非営利の世界に貢献する例が 数多くあります。
マイクロソフト創業者のビル・ゲイツが元妻メリンダとともに2000年に設立した ビル&メリンダ財団は、世界最大の財団のひとつで、資産規模は5兆円です。 「すべての人が健康で生産的な生活を送る機会を得られる世界を実現すること」を ミッションに、「成果」を重視することを特徴としています。 担当者は成果創出における責任を任されているといいます。 コロナ禍における22年には新型コロナウイルス対策に67億ドル (約7,737億円(当時))を提供し、21年時点で最貧国の8億人強の 子どもにワクチン接種をおこないました。
また、フェイスブックやインスタグラムで有名なメタCEOの マーク・ザッカーバーグは、夫婦で保有する同社株の99%を 生涯にわたって慈善活動に寄付することにしています。 それは約450億ドル(約5兆5,000億円)にもなるといいます。 単にお金を配るだけの寄付は意味をもたないとし、起業家が企業経営の視点で 強くコミットする必要があると考えています。 その資金の大きさといい、インパクトのある効果、働く人の多さ、 新しいことをするための人材といい、日本ではありえない規模です。
教育を通じて、若い世代に対する非営利セクターの周知徹底が 必要だと考えていますと言いました。 マイクロソフト、フェイスブックやインスタグラムなどは日常に 溶け込んでおり、若い世代で知らない人はいないでしょう。 その創業者の慈善活動や、どんな非営利活動をしているのだろうと いうことには、とても興味を持つのではないでしょうか。
ひるがえって日本ではどうでしょうか。 日本にも多くの企業や創業者の設立した公益法人は多数あるのですが、 そのことをどれだけの子どもたちが知っているのでしょうか。 非営利団体、公益法人って何をしている組織なのだろう。 もし、奨学金を得て学んでいる学生がその奨学金を支給してくれている団体が 公益法人と理解しているなら、社会に出てからの自らの進路の一つとして 考えてもらえないだろうか。 子どものころ寄付を集めたり、ボランティア活動に参加したりすることによって、 社会貢献や利他の精神は市民として大切なことであると伝えることができれば、 より多くの人材が非営利セクターにかかわり、貢献してくれるのではないでしょうか。 弊財団、(公財)かめのり財団の創設者・康本健守の父である 康本亀範(かめのり)が常々言っていた 「社会から与えられたものを社会に還元せよ」 という言葉が財団の設立につながります。 子どもたち、若い世代との接点はあるか、 社会や時代とともにどう歩んできたか、 これからの未来において自分たちがすべきことは何か。 きっとあるはずです。 私たち公益法人に何ができるか、今ともに考えてみませんか。