(公財)公益法人協会 理事長 雨宮 孝子
1.先ごろの衆議院選挙では、「世代交代」という言葉が連日使用されていた。
公益法人について「世代交代」が大々的に問題になることはあまりない。
各公益法人の定款や内規に役員のいわゆる定年制を自ら決めて、粛々と適用されておられるところもあるが、なかなか難しいようで、これに関する問題が当協会の相談室に持ち込まれることも多い。
このコラムでは、その問題を論じようというものではない。
以前から非営利公益法人の事業内容や運営の実際について、小学校、中学校、高校、大学等で、多くの若い人に分かりやすい例を挙げて教育し、実践する必要があるのではないかと思っていた。
たまたま気候変動危機に対して、スウェーデンのグレタ・トウーンベリさんの運動が、世界的に大きな流れを生み、最近では、英国グラスゴーで開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約国会議)で12歳の香港の学生や日本の若者たちのデモの様子がテレビで流された。
最新のインターネットを駆使し、浜松開誠館中・高校の学生は、気候変動危機について、数年前からオンラインを使って問題提起し、2021年10月9日には「小中高全国気候サミット」を開催した(中日新聞、10月10日付)。
それより前には、モンゴルの高校生とも中継をつなげて議論をしているようだ。
オンライン事業や、ITを駆使して、小・中・高の授業では、会社を起業し、ボランティア団体を設立して活動しているニュースも見聞きする。
そこで本題である。
2.皆さんは、来年4月1日から日本は民法改正で18歳が成人となることをご存じであろうか。
もちろん、お酒やたばこは今まで通り20歳からだ。成人になると、父母の親権に服さなくなり、親の同意を得ずに様々な契約を締結することができる。
では、未成年者は、株式会社、非営利公益法人の役員になることができるか。
まず、会社法では未成年者であることは、取締役の欠格事由ではない(会社法331条1項)。
民法上、未成年者は法定代理人の同意を得て法律行為をなすことができ(民法5条1項)、許可を得て包括的に営業を行うことができる(民法6条1項)。
未成年者であっても、意思能力が認められれば、取締役に就任することが可能である。
ここで意思能力とは意思表示などの法律上の判断において、自己の行為の結果を判断できる能力で、一般的には7歳~10歳以上の者を意思能力ありと考えているが、5歳でも認められることもあり、25歳でも意思能力がないこともあり、個別具体的に判断される。
ただし意思能力を認められない年齢の未成年者が、会社の取締役になることは、個人の能力に着目して取締役に選任されて業務執行を行うということを考えると取締役に就任することは認められないと解されている。
またテクニカルな話であるが、実印登録のできる年齢が15歳以上となっているので役員の登記に関して、印鑑証明書が必要であることを考えると、企業の取締役になるには15歳以上と考えるのが妥当であろう。
なお、来年の4月1日までは、成人は20歳であり、男性18歳以上、女性16歳以上(この年齢も2022年4月1日から18歳以上に引き上げられる)が婚姻をすると、これによって、成年に達したものとみなされる(民法753条)。これを成年擬制という。
婚姻成年擬制となれば成人と同様に親の同意なく様々な契約を締結できることになる。
3.非営利公益法人の役員と未成年者との関係はどうであろうか。
非営利公益法人のうち、宗教法人法だけが、未成年者について、代表役員、責任役員、代務者、仮代表役員又は仮責任役員となることができない旨規定している(宗教法人法22条)。
これ以外、一般社団・財団法人法、特定非営利活動促進法、社会福祉法、私立学校法、更生保護事業法、医療法などの法人法も未成年者を欠格事由としていない。
公益法人でも未成年者が役員になることができるということである。
逆に、なぜ宗教法人法では未成年者が役員になれないのか不明である。
教祖が実際は未成年者という可能性はあるのではないか。
公益法人の役員に未成年者がいるかどうかは、確認を取ったことがないが、その性質上、例えばボーイスカウトやガールスカウト、少年野球連盟などにおいて需要はあるのではないか。
なお、蛇足ながら会社の取締役として未成年者を登記する場合には、法定代理人の同意書を添付するのが、実務での取り扱いのようである。
一般社団法人、一般財団法人の場合も、同じ扱いがなされることになるであろう。
末尾ながら、未成年者でなくとも若い世代の意見や要望が組織に取り入れられることにより、公益法人界にも「世代交代」が起こることをひそかに望んでいるのは、私だけではないであろう。