コラム

コラム一覧へもどる

新しい資本主義の実現に向けた公益法人制度改革への期待

(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 代表理事・副会長 永沢 裕美子
昨年10月から開催されていた「新しい資本主義の実現に向けた公益法人制度の在り方に関する有識者会議」に委員として参加する機会をいただいた。
当初、代表理事になって5年にも満たない私でいいのか?という逡巡もあったが、小規模な社団法人の声を伝えることも必要と思い直し、「現場」を代表するつもりで参加させていただいた。

有識者会議での隣の席は、昨年10月の公益法人協会創立50周年記念シンポジウムで基調講演をされた溜箭将之先生。
先生の「公益法人の成長」というお考えに改めて共感するとともに、代表理事に就任した当時、「単年度の収支は赤字でなくてはならない」という“教え”に驚き、強い違和感を覚えたことを思い出していた。

考えてみれば、どの法人も、社会のためになることをしよう、今よりももっと活動を拡大していこうという思いで、公益認定をいただいたはずである。
ところが、毎年の決算において収支相償原則の充足に囚われてしまい、この原点を見失ってしまいがちになるのではないか。
収支相償原則は、公益法人の活動の発展を阻害する桎梏となっているのではないだろうか。

この点、会議の席上、事務局からは「赤字でなくてはならない」というのは誤解であるとの説明が繰り返し行われ、最終回の取りまとめでは、「中期的な収支均衡状況を図る」趣旨であることを法令上明確にするとともに、収支相償原則という呼び名そのものも改めるという方針が示された。

一般の会員(社員)に「赤字がいい」などという考え方は通用しない。
むしろ一般には「赤字=経営がよろしくない」と考えられている。
法人経営を預かる立場としては、中期的な視点で法人運営に臨むことができれば、自分の在任中にこのように活動を展開していきたいという方針と一致した決算説明が可能となる。
撤廃とまで言って欲しかったという思いもないわけではないが、小さくない前進であると評価している。

認定手続の柔軟化・迅速化の方針が示されたことも評価したい。
人間と同様、法人も時間の経過とともに変化し、取り組みたい社会的課題も変わってくる。
変更認定の必要性を感じながらも、手続きの大変さを考え、二の足を踏んでいた法人は少なくないのではないだろうか。
法人が定款に掲げている公益目的の範囲内の変更の場合は届出で済ませ、検査の時に指導ということにしてもらえれば、活動の創意工夫も生まれやすくなるように思う。

もっとも、こうした規制緩和とともに、法人自身の自律を促すガバナンスと情報開示の拡充が求められることは当然であり必然であろう。
ここは覚悟しておかねばならない。
その一方、果たして自分たちが対応できるのか、という不安もある。
理事や監事については、責任に見合う報酬を支払うことが難しく、まさにボランティアでやってもらわなくてはならないという法人も少なくないのではなかろうか。
こうした中で理事や監事に適任な人をどう探すかという課題がある。
公益法人の理事・監事はどうあるべきかという議論や理解の浸透・共有とともに、そのための研修の提供や人材バンクの設置なども検討してはどうだろうか。

情報開示の在り方についても見直しや工夫が必要である。
現行の財務諸表は複雑で、作成する側に負担が大きいばかりでなく、社団法人の場合、出資者に相当する一般の会員(社員)には理解が極めて困難であり、情報開示に役立っているとは言えない。
シンプルでわかりやすい財務諸表をぜひとも実現していただきたい。
また、理事会の構成や理事の参加状況などが分かるような非財務の情報の充実も今後必要となろう。

最後になるが、5月17日までの期限で意見募集が行われている。
多くの公益法人の現場の声であるパブリック・コメントに真摯に向き合ってほしい。
政府におかれては、これで終わりにせず、タウンミーティングなども継続して実施いただき、広く現場の声を汲み上げていっていただくことを要望したい。


*公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会
 (1988年設立、2011年公益認定、会員数約2100人)、https://nacs.or.jp/


新しい資本主義の実現に向けた公益法人制度改革への期待 | 公益財団法人 公益法人協会