(公財)公益法人協会 副理事長 鈴木 勝治
1.落語の三大噺ではないが、三つの言葉を並べて当意即妙で世間の人が納得するような真実ないしは事実を述べるフレーズ(成句)がある。 分かりやすい例としては、かっては日本人の大半が好きなものとして「巨人・大鵬・卵焼き」というものがあった。 もっとも時代の変化に伴い、今では必ずしも通用しない成句かもしれない。 表題の「平家・海軍・国際派」はどうであろうか。 1980年代の初め頃からよく使われていたと思うが、その意味は「平家、海軍ともカッコよく、洗練されていたが、結局は源氏、陸軍にヤラレテしまった。国際派も同じこと。結局は民族派には勝てません。」※ということで、国際派の嘆きとされている。 このフレーズは言い得て妙であるため、相当人口に膾炙していたと思うが、現在ではいかがであろうか。 ※成句といっても、所詮戯言であり、上記のような上手な定義(?)は元々ないと思っていたが、念のためネット検索してみると東大法学部国際法の教授(当時)である大沼保昭氏が自分の国際派(?)としての嘆息を込め、意をつくしたエッセイを書かれていた(本稿はこれに負うていること大であるが、原文は学士会アーカイブ〈No.772(昭和61年6月号)〉 https://www.gakushikai.or.jp/magazine/archives/archives_772.html を参照されたい)。 もっとも念のために申し上げると、氏の議論・結論に筆者は僭越ながら必ずしも全てに賛成ではない。 2.今般、筆者がこの成句を思い浮かべるに至った契機は、さる6月2日の「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」 (以下単に「有識者会議」という。)の最終報告のうち、収支相償等の財務基準と税の取り扱いについての脚注である(同報告書3頁)。 そこでは「公益法人の財務規律」の注として「収支相償原則(フロー面)や遊休財産規制(ストック面)など。これらが制度上確保されていることが、公益目的事業非課税等の税制優遇措置の前提となっている。」と書かれている。 このことは巷間よく言われたことではあるが、文書として公にされているものとしては、筆者が知る限り財務省の「平成20年度税制改正の解説」のみであり、そこでは「公益目的事業に係る活動を促進する観点も踏まえ」、「(イ)公益目的事業から生ずる所得に対しては課税しないこととする(公益目的事業非課税)。」「公益認定法上は収支相償の基準が適用されるため、公益目的事業による収支差額が(中略)恒常的には生じえない収支構造であることが、制度上確保されていることから(中略)収益事業の範囲から除外するというものです。」と書かれている。(本解説は、「有識者会議報告」でも引用されている。) このことは平たく言えば、儲からないようにしてあるから、収益事業の範囲から除外しても、税収が減ることはないといっているようなものであり、収益を上げて公益目的事業にかかわる活動を促進する視点は全くみられない。 3.このような、公益目的事業の拡大とそのための税制の扱いの行き違いは何故おきるのか。 全くの私見であるが、ここに国際派と国内派の対立をみる。 公益認定法第1条では、「この法律は、内外の社会経済情勢の変化に伴い、民間の団体が自発的に行う公益を目的とする事業の実施が公益の増進のために重要となっていることにかんがみ、」と規定し、国際的な背景を重視し、日本も公益の拡大・増進をすべきであると、国際派と思しき人は規定したと思われる。 しかし、同法第14条では「公益法人は、その公益目的事業を行うに当たり、当該公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない。」と規定し、上記2に記したように、実際上は税収だけは減らさないような仕組みを国内派(?)はしっかりと確保しているのである。 4.このような齟齬は、同じ組織(この場合は財務省)の中でもよくおこることであろう。 しかしながら、先般の公益法人制度改革(15年前)で公益認定法第1条が提示されたことに、ある意味感激し、日本もこういう世の中になることに両手を挙げて賛成した人間からみると、同法第14条は実質的には正反対の考えであり、制度改革による新制度の建前とは矛盾しているという感じを禁じ得ない。 今般の改正では、この枠組みは基本的には崩さず運用でカバーしようとするようであるが、こうした運用による複雑で面倒なやり方(規制)ではなく、欧米のように、まず自由にやらせ、それで問題が起きればそこで対応するといった国民を信じたやり方は取れないものであろうか。 公益目的事業の拡大は、国ないしは国民全体の大きな利益にかかわることである。欧米のように大きな枠の中で自由に活動する仕組みとし、このような国益を増大させる改正を早い機会に行うことを心から願うものである。