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今こそ、長期的な視座を

(公財)秋山記念生命科学振興財団 理事長 秋山 孝二

私は財団法人経営に携わって数十年、この間、企業経営とも重なる期間もありましたが、 幾つかの財団の理事長を兼務しながら、バブル崩壊後の日本社会において、 多くの経営者が長期的視点を喪失しているのをつくづく感じています。

公益法人協会では一昨年10月から1年半、公益法人のための「ESG投資研究会」を立ち上げ、 私も委員として参加しました。 ESGへの正しい理解と公益法人の資産運用(投資)収入の向上・ 安定化に寄与し、さらに資産運用を通じた環境や社会等への貢献ができるよう議論を重ねました。 これまで財団運営の要として、基本財産の運用からの収入というビジネスモデルを位置付ける 財団は極めて少なく、投資家的視点からの議論は殆どされてこなかった気がします。

私はこの間の議論を通じて多くのことを学びましたが、民間で自立する財団の事業永続性を 担保する為には、あらためて「長期的視点」に立つ運用モデルが必須だと確信するに至りました。   

財団法人活動の神髄はどんな時代でも持続可能なこと、その原資となる収入は当然「長期的」に 維持されること、同時にインフレリスクへの対処として基本財産自体を増やし保全することが必要条件です。 基本財産の運用収入は、「長期的視点」からの投資ポートフォリオに基づいて行われ、それ故に為替リスクほか取れるリスクもあるはずです。

ところがこの30年以上、金融業界を含めた日本の経営者は、バブル崩壊後の状況の中で 短期的利益と業績に追われて一喜一憂、将来展望に基づく長期ビジョン・計画を示す姿勢を 失ってきたのではないでしょうか。 それは、「温暖化」、昨今では「沸騰化」は、毎日あるいは週間天気予報ではなかなか 理解できない状況と似ています。 財源論議になると、近視眼的ゆえに後代負担(先送り)の論理がまかり通っている惨状です。

話は変わりますが、 私の出身高校には札幌市内に122haの学校林があり、今年で112年を迎えます。 私はここを所有する一般財団法人の第十八代目の理事長ですが、『造林育人』を理念に、 当初は明治の大火で一面原野だった場所にカラマツの植林する活動から始まり、 戦時の木材拠出を経て再度の植林作業、100年近くを経て育樹時代へと移行し、 在校生と共に教育林・環境林としての活動を継続しています。

2018年に『学校林100年プロジェクト』と銘打って、2150年に向けての 長期ビジョンを発表しました。 そこには理念として、「明治の記念事業から100年超、100年後にはかつてあったはずの 原生に近い多様性を持った森林の状態を目指す」と記載しました。

森を注意深く管理・保全しながら、学び・遊ぶ場へと進化し、在校生・同窓生だけに留まらず、 森を愛する人たちの活動と交流の場へと広がりを期待し、夢の実現に向けて季節を問わず活動して、 ある時は静観し、集い、議論し、そして散策する日々です。 山の見守りはまさに『造林育人』、人材の育成と共に生きるが如く、長い時間軸を見据えながら 日々の一瞬と真摯に向きあい、寄り添っての学びなのではないでしょうか。

財団運営こそ、将来の夢を着実に実現できる組織体のような気がします。



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