公財)助成財団センター 専務理事 田中 皓
まだ復興活動が続く東日本大震災から10年を迎えようとしている中、13日の夜半に福島県沖を震源とする最大震度6強(マグニチュード7.3)の地震が発生し10年前の被災地を再び強い衝撃が襲った。
この地震も2011年3月の東日本大震災の余震とのことで驚かされたが、夜が明けると同時に広域での被害が明らかになりつつある。
被災された皆さまには心からお見舞いを申し上げます。
公益法人界にあって衝撃とまではいかないが、昨年12月25日に「公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する有識者会議」は、最終とりまとめを発表している。
内容はご高承の通り、
(1)役員や社員・評議員のより一層の機能発揮(外部人材活用の仕組み、組織内部の牽制機能の強化等)、
(2)会計監査人の設置義務付け範囲の拡大(設置基準の引き下げ等)、
(3)透明性の確保の推進
など、大きくは5つの論点と取組の方向性について提言されている。
この内容についてはいろいろのご意見があるところであろうが、一言でいうと、ガバナンス強化が不祥事対策の観点から検討された感が強く、これまで何度も提言してきている現制度の骨格に関する公益法人の運営現場からの問題点や課題(たとえば、財務3基準の見直しや事務処理目面の煩雑さ等々)等ガバナンス強化の原点となる課題についてはまったく触れられておらず、せっかくの有識者会議が誠に残念と言わざるを得ない。
仮に、今回のとりまとめを実現しようとした場合、法人の運営に携わる優秀な人材や外部専門家との連携などが欠かせないが、それを実現するための施策の検討はまったくなされていないし提言もない。
ガバナンスの強化を実現しようとすれば、そのためには経費も必要になり、さらに言えば法人自体の総合力の増強が欠かせない。
その観点からは、現制度の運営を難しくしている収支相償や遊休財産制限等のいわゆる財務3基準といわれる法令上の課題を最優先で解決しなければならない。
制度改革により、それまでの24,300の公益法人のうち新公益法人への移行は9,300法人にとどまり、新制度がスタートした後の公益法人の新規設立件数が毎年100件にも満たない現状は、公益認定法第1条に謳う「民間の団体が自発的に行う公益を目的とする事業の実施が公益の増進のために重要になっている」との認識とは裏腹で大きな問題と言わざるを得ない。
なぜそのような現状になっているのか、その主要な原因はこの10年間の現状分析から明らかになってきている。
(1)には、財務3基準による公益法人の運営の窮屈さ、緊急時や社会ニーズの変化に即応できない財務体質への懸念、
(2)には、新たな事業への取組みを含む各種申請の煩雑さ、それにとられる手間と時間への嫌気。
この課題の解決なくしては、公益法人を設立して公益の増進及び活力ある社会の実現に資するという意欲的な取組みは衰退していくのではないかと危惧されるところである。
当センターに助成財団の新設に関する相談がある。
その初期段階から「公益法人になると大変と聞いているのですが、一般法人が良いのでしょうか?」と言われるケースがあり、公益法人になると大変だ、面倒だ、自由が奪われるというイメージがかなり広がってしまっていると思われる。
それらを払拭するためにも前記の(1)(2)を解消することは逼迫した課題である。
加えて更なる公益活動の活性化に向けては、事前規制の強化から事後チェック強化への転換も必要となってくるのではないか。
2018年の「制度改革施行10周年記念シンポジウム」において採択された「大会宣言」、中でも「財務3基準の関係の是正と提言」における「収支相償の原則撤廃、あるいは収支計算に際して寄附金や運用収入等の非事業性収入の不算入」や「遊休財産の保有制限を最低でも3年度分の事業費相当額に引き上げる」などの実現に向けた具体的な行動を民間公益法人界挙げて起していくことが欠かせない時期に来ているのではないか。
ガバナンス強化有識者会議の最終とりまとめからその感を一層強めた次第である。
ガバナンスの強化と言えば、余談になるが、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の現況におけるガバナンス面からの対応は大変気になるところであり、注目したいと思う。