産業能率大学経営学部教授 中島 智人
職業柄、高校にお邪魔して模擬授業を行うことがある。
高校生にとっては、現役の大学教員を通して、高校の教科にはない専門的な学問分野やそこで学ぶことについて理解を深めたり、大学ごとの特色ある授業の進め方を肌で感じたりすることのできる機会となっている。
最近では、大学入試における学校推薦型選抜(推薦入試)や、以前はAO入試と呼ばれていた総合型選抜の比率が高まっており、大学進学を考える高校生は、早いうちから自分の進路について考え、準備を進めることが求められている。
大学の専門分野にかかわる模擬授業とは別に、高校に出向く機会がある。
それぞれの高校で進めている「総合的な探究の時間(探究学習)」の支援のため、である。
高校での「探求学習」は、それまでの「総合的な学習の時間(総合学習)」に代わり、2022年度から必修化された。
高校では各々対応しているものの、課題を感じながら進めている高校も多いのではないかと思う。
そのような高校からの依頼を受けて、高校生向けに問題発見や問題解決、あるいは調査設計など、探求学習を進めるにあたって求められる事柄について講義したり、指導する先生方を支援するためのプログラムを提供したりしている。
探求学習では、それぞれの高校は探求学習の目標や内容を決める際に、「地域や社会との関わりを重視すること」とされる。
またその課題は、「国際理解、情報、環境、福祉・健康など現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題、地域や学校の特色に応じた課題、生徒の興味・関心に基づく課題、職業や自己の進路に関する課題」などを踏まえて設定することが求められる。
そして、高校生が「日常生活や社会に目を向けた時に湧き上がってくる疑問や関心に基づいて、自ら課題を設定する」(文部科学省「高等学校学習指導要領」(平成30年告示)「解説 総合的な探究の時間編」)とある。
高校生に対して、自己と地域・社会との関係から課題を発見し、それを解決していく力を養うことが期待されているのである。
大学は、2025年度の入試から、この探求学習を必修科目として経験した高校生を受け入れ始めている。
基本的に1年生の多くは、自己の興味関心と地域・社会との関連から、そこにある課題に目を向け探求した機会を経験したことがある、と考えることができる。
探求学習に真剣に取り組んだ生徒・学生にとっては、地域・社会にある課題は、単にメディアやSNSに載せられた話題ではなく、自己に照らし合わせて考え、理解された自分の課題となっているのである。
これまでも、社会的課題に関心をもち、それを自分たちの手で何とかしたいという想いからさまざまな活動に携わる生徒・学生を含むいわゆる意識の高い若者に、私自身も多く接してきた。
これからは、社会的課題を他人ごとではなく自分ごととして考えることが、より多くの若者にとって普通のことになるかもしれない。
学習指導要領の改訂の背景のひとつとして、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代に対応した生きる力を養うことの重要性があげられる。
VUCAの時代にあって、社会的課題も同様に複雑化・多様化しており、これまでにない取組みが求められ、そこに公益法人や特定非営利活動法人など非営利組織の強みが発揮されると考えられる。
高校生のころから探求学習に取り組み、社会的なもの・社会的課題を自分ごととして考えるようになった若者にとって、その最前線で活動する
公益法人など非営利組織は、より身近な存在として感じられるようになるのではないだろうか。
そして、非営利組織には、このような社会的課題を自分ごととしてとらえるようになった若者を受け止めることが期待されているのである。