(公財)公益法人協会 副理事長 鈴木 勝治
1.昨年12月20日の日経新聞によれば、政府は国内外から「グリーン投資」を呼び込むため、企業に関連する情報開示を促す指針をつくり、2021年夏までにまとめる成長戦略に盛り込むとのことである。
これは、世界でESG(環境・社会・企業統治)投資(*1)が急拡大しているのを踏まえ、日本での次世代技術開発への資金流入を増やし、脱炭素の目標達成に道筋をつける狙いであり、他方では、投資家からみて企業のグリーン対応の進捗を把握しやすい開示のあり方を検討する意図とされる。
この裏では、欧米でのESG投資の急拡大に伴い、英語圏を中心にESGの情報開示の義務化(英国・ニュージーランドの気候関連情報開示タスクフォース(TCFD)の提言等)があるとされている。
2.このように環境対応を重視するESG投資は世界の潮流になりつつあるが、2018年時点の世界のESG投資残高は30兆ドルであるのに対し、日本の場合は200兆円と見劣りしている。
このため政府は、環境と経済成長の相乗効果を狙いとして、官民をあげてグリーン投資の拡充を行い、経済の下支えも行う方針で、「ESG金融」や「グリーン国内総生産」などの新しいtoolや指標を作る方針とのことである。
3.このような状況の中で、我が公益法人界の現状はどうであろうか。
2020年12月に内閣府から発表された2019年度の公益法人の概況調査(*2)によれば、公益法人の現在保有する資産はおよそ28兆円とされている。
そのほとんどは、預貯金や国債、ストレートボンドであると思われ、いわゆるグリーンボンドはnegligible smallではないかと推測される。
このように現状では、ネグリジブルであっても、資産全体は28兆円もあることから、上記のような潮流に対し、無関心ということは、公益目的事業を行っている主体としては許されないのではないかと考える。
4.ESGと似て非なるものにSDGsがあるが、偏見乃至は浅薄な理解と思われるのを承知で私見をあえて言わせていただくと、前者は目標が明確に定まった投資・行動指針であるのに対し、後者は17の相互に矛盾する恐れがある目標の総花的羅列であり、民間が取り組めない目標もあるなど実践の際に、ハタと困る目標も含まれている。
言うまでもないが、SDGsの17の目標の中にもゴール13~15(気候変動・海洋・生態系・森林)などはESGと同様のものが含まれていることから、仮にSDGsの信奉者であってもESGの遂行とは矛盾することは全くない(*3)。
5.昨今の異常気象は、地球温暖化によるものと言われ、新型コロナウイルスについても、無暗な開発の結果だとする見解もある。
私たちは、このような状況下においては、いろいろな目標を掲げるのではなく、このような問題の解決に最も有効とされる環境問題一本にしぼって真剣に取り組む必要があるのではないか。
その意味では、我々公益法人界も自らが行う公益目的事業が環境対策である場合はもちろんのこととして、そうでない場合でも、保有する資産の投資をESG債等に向けるということを検討してもよい時期に来ていると思われる。
(因みに、当協会では、来年度に向け、ESG投資についての研究会の立ち上げを、企画中である。)
*1 ESG投資そのものの簡易で明確な説明・解説については、当協会の機関誌『公益法人』2020年12月号、小林立明氏による「ESG投資の発展と公益法人」をご参照。
*2 内閣府「令和元年 公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告」(令和2年12月)をいう。
*3 政府のSDGs推進本部による「SDGsアクションプラン2021」(2020年12月)の見解の中にも、2021年の8つの優先課題に関する主な取組の5と8の中に「ESG投資の拡大」や推進が書かれている。