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課題は身近に

(公財)公益法人協会 常務理事 長沼 良行

当協会では毎年この時期は、来年度に向けた税制改正に関する要望を検討し取りまとめる作業を行っている。今回取り上げたいと思っている項目の一つに「貸与型奨学金の消費貸借契約に係る印紙税非課税措置」というものがある。

貸与型の奨学金の場合、金銭消費貸借契約とみなされ借りる金額に応じて、印紙税を納付しなければならない。
つまり奨学金の借用証書に収入印紙を貼ることが奨学生に求められる。
それが、2016(平成28)年度の税制改正において、租税特別措置法が改正され、一定の要件のもとに非課税となる仕組みが創設され、以降3年ごとに時限措置となって延長されてきており、今回の期限が来年3月末までとなっている。

参考までに申し上げると、この制度の創設は、当協会の会員団体の事務局長から機関誌『公益法人』※へ投稿があったことがきっかけとなっている。

同事務局長の投稿は、そもそも社会的に意義ある貸与型奨学金の借用証書を、金銭消費貸借契約と同等に扱い、課税文書としていることには大きな違和感を覚えるものであるが、同様に学資の貸与に係る業務に関する文書でありながら、独立行政法人の日本学生支援機構や自動車事故対策機構からの借用証書は、印紙税法別表第三に掲げられていることから非課税とされている。
民間財団の財産を原資とする奨学金で、無利子の貸与で営利的な要素はなく、同種の貸与金でありながら、貸与団体の組織的な形態により違いがあることに不合理を感じるという率直な疑問を投げかけ、学生にとっては学費の負担も大きいので、たとえ少額であっても、出ずるを制する手助けをしたい、という切なる願いを訴える内容であった。

この投稿を受け、2013年から当協会の税制改正要望に盛り込み、関係各方面に働きかけを行って、時限措置とはなっているが実現することができた。
現場で日々の業務を行う中で一人の担当者が疑問に感じていたことを社会課題ととらえ、投稿という行動に移し、理解者を得ながら不合理な現状の改善につなげた好事例といえよう。
当協会としてもそのお手伝いができたことは喜びであり、それが法人としてのミッションの一つであり、何より存在意義でもあると思っている。

昨今の経済環境下、学資負担が困難な家庭が急増している中、公益法人等非営利法人による奨学金は、ますます重要な役割を果たしているところであり、本制度に関しては海外留学の奨学金も対象とするなど、さらなる拡充を目指して来年度に向けた税制改正要望項目に取り上げたいと考えている。
法人各位からもご意見ご要望をお寄せいただければ幸いである。

※「奨学金借用証書の印紙税について」『公益法人』(2013年9月号)


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