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民主主義と選挙

城西国際大学講師・前教授 高宮 洋一 (公益法人協会 理事)


時あたかも選挙の秋である。
時節柄、今回は民主主義と選挙について考えてみようと思う。
民主主義(democracy)の語源はギリシャ語のdemos(人民)とkratia(権力)に由来している。
民主主義を奉じる社会では、権力は人民に由来し人民が行使して、「人権、自由、平等、多数決・法治主義」等を保持している。
具体的には、現代民主主義国家では人々は選挙権を行使して自らの代わりとして最適と思える代行者を選ぶ。
選ばれた代行者は各々を選出した人々の意思を代行して権力を行使し、多数決・法治主義の下、人々にとっての最適解の実現を図る。

過日私が居住する地域での市長選挙が行われた。
国政野党系候補 現職A氏、国政与党系候補 医師B氏、市政で長年実績を積んだ無党派市議会議員出身候補C氏の争いであった。
結果は投票率47%(A氏28%、B氏13%、C氏6%)で、現職A氏再選となった。

選挙活動期間は、コロナ禍下でもあり大部分の市民は各候補者の弁論に接する機会は得がたく、各候補者の主義主張・応酬弁論を真っ向から聞く機会の主要なものはYOU TUBE上で行われた公開討論会のみで、後は街宣の連呼とポスターが判断材料であった。
公開討論会は、開催を大いに広報された。
しかしそのYOU TUBE動画の視聴回数は2,600回強に過ぎず、仮に視聴者の全員が有権者であったとしても視聴した者は有権者の2%に過ぎなかった。
討論会では、「コロナ禍対応が他自治体に比較し大きく後手に回り、対策の先頭に立つ危機時のリーダーとしての期待された顔も外からは見えなかった現職A氏」と、「コロナ関連しか論じない医師出身挑戦者のB氏」がコロナ問題のみを議題に言い訳と非難合戦を展開。冷静に市政全般に亘る論を展開したのはC氏のみであった。

政治家は“一処懸命”、勝負どころでの弁論こそが命である。
討論会出席候補者の次期市長としての資質優劣は鮮明に思えた。
しかし、唯一の公開討論は捗々しく視聴されず、故に討論会の模様は投票に反映されたとは思えず、半数にも満たない投票率のもとで結果は前記の通りであった。
我が地域の市長選における、有権者の行った棄権判断・投票判断の個々の内容は伺い得ない。
経過・結果を見るに、果たして有権者は真摯に選挙に向き合い、十分にその責任を果たし選良は選び得たのであろうか?

「民主主義政治では、政治の在りようはそれを支えそれに律される民衆自身の鏡である」といわれる。
「権利であり義務でもある政治参加に関し真摯に向き合い」、「積極的に情報・事実を収集する努力をし」、「自らの代弁・代行者たるべき人物をその政治的背景も含め目を凝らして見極め」、「任期中の働きを見守り続け」、「当該人物の政治行動が支持者の預託に背反なく十分に応え得たかを審査・総括し」、「改選で厳しく評価を下す」。
今風の言い回しで言えば、FACT主義と、世に品質管理の実践手段として用いられるPDCAサイクルこそが良質の民主主義政治を支え進化させるすべである。
民主主義の選挙における私達有権者側の責任とは何か?
私達は果たしてそうした姿勢を十分に意識・実践できているであろうか?

一方投票率に目を転じると、我が国の国政選挙投票率は昭和期の70%前後から低下傾向が続き、近年は50%前後となってしまっている。
特に若手・若年層の投票率は昭和期の60%前後から近年に至って30%台と半減している。
冒頭記したように、民主主義での選挙は、その社会の「人権、自由、平等、多数決・法治主義」等の保持に繋がっているのである。
民主主義の意義、その保持・進化に向けた民衆の義務と責任を私達自身が自覚する一方、こうした状況を踏まえるとあえて積極的に周辺の仲間や次代を担う若者たちと、その在りようを熱く語り合っていくことが極めて重要に思われる。

昨今の報道で、専制強権国家の躍進や、民主主義のお手本であった筈の米国の大統領選挙における大混乱の体たらくを見せられ、民主主義限界論等を聴かせられる。
勿論民主主義は、「時間や費用等のパフォーマンスの悪さ」、「最大公約数を求めるが故のBESTではなくBETTERの選択」、「政治的権謀術数の横行」、「ポピュリズム・衆愚政治への陥りやすさ」等々欠点も多い。
しかしW. チャーチルの言ったように「民主主義は問題のある政治形態である。
しかし少なくともこれまで試みられている全ての他の形態よりまし」であると思える。

日本は、曲がりなりにも「人権、自由、平等、多数決・法治主義」等が尊重され、それらは概ね有効に機能し得ており、国際比較の中でも最も安定した民主主義国家の一つであると言われる。
私達は、国内においては、引き続き日本の民主主義政治を支えることへの責任を自覚し、その手段である選挙に真摯に向き合い、健全な民主主義を保全進化させていく事。
そして海外に目を転じれば、世界の民主主義国家群の主要旗手の一員として、こうした我が国の在りようを世界に示すことで、世界の健全な民主主義の発展をリードしていく重要な役割が求められているのだと思うのである。



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