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新しい資本主義と公益法人

(公財)公益法人協会 理事長 雨宮 孝子

2022年10月18日、心配していた雨の影響も少なく、公益法人協会創立50周年式典がおかげ様で、成功裏に挙行されましたことは、うれしい限りです。
準備は、2年前から始め、会員の皆様、役員の皆様からは多くの浄財をいただきました。
ここに改めて皆様からのご芳志に感謝申し上げます。

当日のプログラムでもお示した通り、創立者の渡辺昌夫は、「公益法人は新しい時代を拓く組織である。公益法人協会は、省庁の縦割り行政で分断されていた公益法人を共通の土俵に乗せ、公益法人の横のつながりを通して学び、時には連携し、自らの活動を社会に発信し公益法人制度をより良いものにしていくのが使命である」と言い、さらには、組織の健全性に必要なものは情報公開(ディスクロージャー)であると。そのDNAは現在でも公益法人協会の事業に受け継がれ、民間非営利組織に関する情報発信、提言活動、外国の民間非営利組織の調査研究・連携等多様な活動を行い、民間非営利活動を支援してまいりました。
しかしながら、私は人々の価値観やニーズが多様化している現状において、既存のシステムでは社会サービスの提供には限界があり、もっと民の活力を上手に引き出すことが大事であると考えます。

当日の「大会声明2022」*1では、公益法人の成長戦略を検討し、守りのガバナンスの強化ではなく、ガバナンスは、その法人の運営を自主的な努力により、有効に遂行するためのものであるので、攻めのガバナンスを重視する考え方への転換が必要であると提言しました。
その他、我々が2018年の大会宣言で示した内容についても改めて言及しました。
以下の三点が要約です。

(1)いわゆる財務三基準の改正━具体的には、①収支相償の原則は、公益目的事業の安定的運営等を否定するものであり、基本的に撤廃する。少なくとも公益目的事業の収入ではない寄附金の収入を算入しない。②収益事業を原資として公益目的事業を遂行している場合、公益目的事業の50%がクリアー出来ないとき、合理的な範囲で収益事業の費用を、公益目的事業の費用として算入することを認める。③遊休財産の保有制限について、たとえばコロナ禍のような事態にそなえて1年分では不足なので、一定額の保有や積み立てを認めるべきである。
(2)変更手続き等スタートアップをスムーズにするため簡素化を提言する。
(3)情報公開の充実と拡大の提言。特に公益法人の全情報を把握している行政庁において、個人情報に保護しつつすべてを公開し、公益法人の活性化に利用すべきである。

このタイミングで、本年10月4日から行われている経済財政政策担当大臣の下で開催されている「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」は、民間による社会課題解決に向けた公益的活動を一層活性化し、「新しい資本主義」の実現に資するため制度改正および運用改善の方向性について検討することとなりました。
この有識者会義の設定は、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」策定の中で、(一社)経済団体連合会の会長・十倉雅和氏の発言*2がきっかけでした。

公益法人の新しい制度ができて、14年目。
収支相償や遊休財産規制など民間公益活動の規制が厳しいのは問題だという指摘で制度改正・見直しの検討が実現することになりました。
有識者のメンバーは、公益財団法人、公益社団法人、一般財団法人、法学者(英米法・信託法、商法、税法)、公認会計士、弁護士、経済界などから選出され、男性5名、女性6名、オブザーバー(女性2名)で、会計や法律の専門家も含め、公益法人を専門とする実務家ばかりです。座長は、公益法人協会理事長の私・雨宮です。責任は重いと思っています。
スケジュールは、2022年10月から11月30日までに中間とりまとめを行い、2023年1月以降、法制化に向けた具体的検討を行うことになっています。

この有識者会議では、新しい資本主義実現のための柱の一つとして、公益法人の活性化のための制度見直しとしては、以下の二点を主要なものとしています。
(1)収支相償原則等「公益性の認定基準」はいかにあるべきか。
(2)公益認定の基準を見直し、法人の活動の自由度を拡大するとした場合、国民の信頼確保のため、法人の「自律的ガバナンスや説明責任」はいかにあるべきか。

この二点について私見としては、次のように考えます。
まず、収支相償については撤廃すべきです。収支相償の原則を公益認定基準とし、公益目的事業の収入に税制優遇している趣旨は、同種の営利事業の競合に配慮し、できるだけ受益の機会を増やすために低廉または無料で行うことが重要だという意味であると解することはできます。
事業収入をできる限り公益に使用すべきという意味も理解はできますが、公益認定法14条の解釈について事業収入でない寄附金を収入に入れることには賛成できません。寄附金は事業収入とは言えません。この部分を正確に解釈できるよう改正すべきです。
この意見に対し、寄附金を指定正味財産にすれば、この収入から除外できるから解決できるとする意見もありますが、しかし、これでは寄附者に指定を強要することになります。
当局の実務上の扱いでは、指定の方法に厳格性を要求されて困るという相談も公法協には寄せられています。もともと寄附金は事業収入に入れないとすべきなのであって、指定正味財産にすれば収入から抜くことができるというのは逃げ道のテクニックを教えるようなもので、正論ではありません。特定費用準備資金を柔軟に解釈し、全体として適切・合理的ならば、複数年で使用すればよいという考え方もあり、それを規定するといいますが、その運用基準をどう書くかは気になるところです。

ついでながら遊休財産規制については、パンデミックのような緊急時に法人として存続できる範囲─たとえば3~4年というようにその範囲にすることの説明ができるものであればよいのではないか。長期的にためて使用しないと死蔵することになると言われますが、公益目的にしか使用されない公益目的財産であるから死蔵とは言えないと思います。
新しい資本主義における公益法人の活動として、新たな事業や成長を伴う活動の変更認定または変更届を迅速にしてほしいというのは、多くの公益法人の願いでもあります。

二点目の法人の活動の自由度を拡大するとした場合、国民の信頼確保のため、法人の「自律的ガバナンスや説明責任」はいかにあるべきかについては、公益法人側も襟を正し、自らの規律に基づき「ガバナンス・コード」等を作成し、かつその規定を順守する。
さらには、自らの事業を積極的に情報公開し、社会に対し理解を深めてもらうことが絶対必要です。
公益法人の活動の理解者=サポーターを増やすことが何より大切なことだからです。

*1 全文は下記よりご覧ください。
   https://kohokyo.or.jp/non-profit/kohokyo20221019/ 
*2 参照:「新しい資本主義実現会議」第6回(2022年4月28日)十倉委員提出資料
       https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai6/shiryou8.pdf 
   参考:「原田勝広の視点焦点―公益法人に「新資本主義」の波」『alterna』
       https://www.alterna.co.jp/58898/ 


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