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大英帝国で育まれたチャリティ思想

山岡 義典((公財)助成財団センター理事長、(特活)市民社会創造ファンド理事長)


新聞広告で見て「これは読まなくては」と思っていた矢先、著者から寄贈いただいた。
金澤周作著『チャリティの帝国―もうひとつのイギリス近現代史』(岩波新書、2021.5)だ。
著者はすでに2008年に『チャリティとイギリス近代』(京都大学学術出版会、2008.12)を上梓し、興奮をもって必死に読み終えたことを思い出す。
翌年には、日本NPO学会・林雄二郎賞と(公財)損保ジャパン記念財団(現・SOMPO福祉財団)・社会福祉学術文献表彰をダブル授賞、高い評価を得た。

今回は、西洋の古代からの歴史を視野に、それぞれの地域や時代のチャリティ的なものやフィランソロピー的なものを概観し、次第に近代以降の英国にズームアップ、微視的な事例を分析・考察する。
当時の世相を語る豊富な文書や絵画で紐解く手法は見事で、特に帝国として世界を支配する過程の中でのチャリティの展開や変容が興味深い。
その一つ「本格的な国際人道支援の起源に位置付けられるのが、第一次世界大戦の休戦直後に誕生したセーブ・ザ・チルドレン」(P.183)との指摘も私にとっては新鮮な発見だった。1919年のことだ。
その指摘に続く具体的な記述は、日本でも1986年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが誕生して活躍しているだけに、特に興味を覚えた。
「子どもの権利条約」の100年前の原点を見る思いだ。

本書では、チャリティやフィランソロピーに対する人々の思いを次の3つの心的感情を軸に解き明かす。
1.困っている人に対して何かしたい
2.困っている時に何かをしてもらえたら嬉しい
3.自分の事ではなくとも困っている人が助けられている光景には心が和む

最初の2つの気持ちは直接関与する個人の感情なので分かりやすい。
ただ、3つ目の気持ちは第三者が眺めた社会的感情とも言うべきもので、簡単には分からない。
しかしこれがなければ、チャリティの社会史も文明史も成り立たない。
詳しい事象分析が一段落する度に、これら3つの気持ちを簡潔に要約する。
一休止して振り返り、「成るほど、そういうことか」と読み手の興味をつないでいく。
間奏曲を聞きながら次を読み進む仕組みといってよい。

渋沢栄一を主人公にしたNHK大河ドラマが人気なようだ。
日本の慈善・慈恵・篤志といった伝統的な心的感情が、西洋化・近代化の過程でどのように変容していったのか、ドラマの後半ではそんなことも話題になればと密かに期待する。
先に触れた3つの心的感情の変容プロセスとして読み解いていくと、個別の文明史の枠を超えた何かを発見できるかもしれない。
ぜひ皆さんも、本書を読み込みながら「青天を衝け」を視聴していただくと、
思いがけない隠し味に興味を注がれることがあるかもしれません。

参考 『チャリティの帝国』 https://www.iwanami.co.jp/book/b577714.html
   『チャリティとイギリス近代』 https://www.kyoto-up.or.jp/book.php?isbn=9784876987634