(公財)公益法人協会 会長 太田 達男 「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(以下実行計画)」及び「経済財政運営と改革の基本方針2022」に基づく、「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議(以下会議)」が設置され、当初の計画では年内の中間報告を経て明年1月以降、法制度化に向けた具体的検討に入るとされている。 私の知る限り、従来この種の公益法人制度改革論議は、古くは公益法人の杜撰経営が国会で問題となり佐藤首相が行政管理庁に監察を指示し、総理府が一元的な指導監督基準や、会計基準を制定した1971年以降、常に不祥事件等をきっかけに規制強化の方向で改正論議が進められてきた。 明治憲法の理念が色濃く残る旧民法法人制度を、抜本的に改革した2008年施行の大改正ですら、その端緒は行政委託型公益法人の粛正であったが、事務局幹部の英断で本丸の民法改正に舵が切られたものであった。 しかし、今回の論議の始点である実行計画では、「寄付文化やベンチャー・フィランソロフィーの促進など社会的起業家への支援強化」を目的に「新たな法人形態の創設、財団・社団等の既存の法人形態の改革を検討する。」としている文脈から、この会議は既存の社団・財団法人の中心的存在である公益法人の活動を活性化する、そのために障害となっている点を改めるという、極めて前向きな改正を目的として始まったものであることは明らかである。 従って、この会議の本務は、非営利公益組織としての公益法人の本来の特徴である、公益目的事業の自由闊達で、創造的、先駆的活動を妨げている規制を洗い出し、大胆な改正を建議することであろう。 改めるべき点は数多くあるが、 ① 収支相償原則の撤廃 ② 事業変更を含む公益認定に係わる手続きの簡素化 ③ 小規模法人に対する定期提出書類の簡素化 は必ず実現していただきたい。 これらが如何に公益法人の財務的健全性を失わせ、新たな事業展開や新規公益法人設立意欲を萎縮させ、また過剰な事務負担を強いてきたかについては、公益法人の活動の活性化を妨げる最も大きな障害として、公益法人協会や多くの公益法人関係者から、従来から繰り返し指摘を続けてきたのでここでは詳細は省略する。 もう一つ付け加えておきたい。 公益認定等委員会及びその事務局は、2008年公益法人制度改革における、改革の理念、基本的枠組及び具体的制度の根拠となった2004年の「公益法人制度改革に関する有識者会議」の報告書を是非読み返していただきたい。 この報告書では、新たな判断主体が、出来るだけ裁量の余地の少ない客観的で明確な判断要件に基づくこと(P.13)、過去の実績ではなく今後の事業計画や収支予算で認定基準に適合しているかどうかを判断すること(P.23)、事後チェック(監督)を行う場合のルールを明確化し、信頼性・透明性の高い仕組みとすることが必要(P.28)とし、これが行政庁による新しい公益法人制度監督の基本方針となった。 この精神が昨今の監督行政においてややもすれば、等閑視されがちな傾向を感ずるが、是非この初心を忘れないで、今回の改正案審議とその後の監督行政に生かしていただきたいと念ずるものである。 最後に第3回以降の会議の議事録公表がされていないが、迅速な公開を心がけいただきたい。 私たち関係者は、委員や事務局の方々がどのような意見を交わされているのか、固唾をのんで注目していることを忘れないでいただきたい。 ※参考:公益法人制度改革に関する有識者会議「報告書」(平成16年11月19日) https://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/koueki-bappon/yushiki/h161119houkoku.pdf
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