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‟寄らば大樹”の落とし穴

(公財)公益法人協会理事・元高知県知事 橋本 大二郎
今年元日に起きた能登半島地震から7ヶ月余りたった8月の初旬、金沢を訪れる機会があった。
能登にまで足を伸ばすことは出来なかったが、知人の紹介で、報道関係の方からその後の被災地の様子をうかがうことが出来た。

その時見せていただいたVTRの中に、輪島市大沢町という集落のルポがあった。
聞けば、以前160人余りいた住民のうち、地震の後地元に戻った人は、その時点でわずか11人とのことだったが、それもそのはず、6月まで半年間も水道は復旧せず、住民は湧き水を共同で使っていたという。
被災地の住民のアンケートを見ると、水の不便さを訴える声が一番なので、地域に戻る方が少ない現状もよく理解できた。

この事例からも感じたことだが、地震大国の日本では、何年に一度かは、全国のどこかで大地震が起きることは避けられない。
それだけに、災害復旧の仕組みを、"寄らば大樹の陰"に頼るばかりでいいのだろうかと思うことがある。
それはどういう意味かと言うと、電気や水道といったライフラインの場合、発電所や浄水場という拠点施設をもとに、大がかりなネットワークを張ってサービスを提供する、"寄らば大樹"型のシステムになっている。
このため、大災害でネットワークが分断されると、復旧には膨大な時間がかかることになる。

特に水道は、地方の人口減少が続く中で、災害時の復旧のみならず日常でも維持が難しくなってきているが、その一方で、お風呂や洗い物に使う水なら、循環して繰り返し再利用出来るろ過機が、メーカーの製品として売り出されている。
このように、水供給のサービスは、水道管を張りめぐらせる土木型事業の専売特許ではなくなっているので、日常の水供給を、水道管のネットワークだけに頼る"寄らば大樹"型から、少しずつ変えていく工夫があってもいい。
また、それが「転ばぬ先の杖」として、災害時に半年間も水が使えないといった事態を、避けることにもつながると思うのだ。

もう一つ、日本では災害発生時の初動にあたっても、官の活動が優先され、民間のボランティアは従の立場に回される。
このため、能登半島のような地形と道路事情のもとでは、民間のボランティアの受け入れが始まるまでには、1ヶ月近くを要することとなった。
こうしたことからも、より円滑な初動のためには、官の側も日頃から、初動の活動に専門性を持つボランティア組織との、連携を深めておく必要があると感じる。

この点で、今年4月に起きた台湾の大地震の際には、地震発生から3時間後には、冷暖房の空調の整った公共施設に、ボランティアの手によって簡易ベッドのついた個室用のテントが運び込まれた。
さらに、食料品や飲料水を届ける担当に加えて、健康維持のためのフィットネスやマッサージを提供するボランティアまでが到着して、数時間後までには、災害関連死を防ぐための体制も整っていたという。

わが国にも、災害の初動に専門性を持ったボランティア団体はいくつもある。
だからこそ、その情報を日常から官の側と連携させておくことが、官の大きな力のみに頼ることから起きる、"寄らば大樹の陰"の落とし穴を避ける道になると思うのだ。
ここにあげた、大災害の際の水の確保や初動での避難者への支援は一例に過ぎないが、大樹の陰に潜む落とし穴にはまらないための懸け橋として、官と民をつなぐ公益法人セクターの果たすべき役割は高まっていると思う。


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