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コロナ禍における専門家と政治・行政

(公財)公益法人協会 副理事長 鈴木 勝治


1.新型コロナウイルスはいまだに猖獗を極めており、感染者数の相対的な減少、ワクチン注射の実施開始等明るい材料は出てきているものの完全解決には程遠く、さらには第4波の襲来や外国の変異株の動向等が懸念されているところである。
 個人的には、正常性バイアス志向が強いせいか、自然体で生活した結果罹患したならばそれはそれで仕方ないと考えているが、新型コロナを巡る公式・非公式の情報の洪水と、その真偽の不確かさ乃至はいい加減さ、さらには科学的根拠に基づくとは思われない行政等の決断・決定による個人並びに集団の行動への制約に対しては、誰しもが辟易しているのではなかろうか。

2.こうした状況の中、医学者であり現在はサイエンスライターである黒木登志夫氏による『新型コロナの科学-パンデミック、そして共生の未来へ』(中公新書)が、昨年(2020年)
12月に発刊された。
 この本は数ある類書の中でも広範な事実や情報の取捨選択を行い、それらに対して驚くべき率直さで科学的に明確な判断を示しており、一読に値すると思われる(*1)。 
 この本の中では、コロナ禍に対する日本の対応に対するベスト10とワースト10が挙げられているが、その根拠と判断には納得がいく。
 因みにワースト10の中には、PCR検査の不足、厚労省の行政(官)の失敗、一斉休校、アベノマスク、首相側近の内閣府官僚や専門家の役割の過不足、並びにリスクコミュニケーションの無さ等が挙げられている。
 またベスト10では、国民の忍耐、三密とクラスター対応、医療従事者の献身的貢献、介護施設での努力、初期段階における専門家の発言の有効性等が挙げられている。

3.ここで私が注目したのは専門家の役割であり、局面は異なるが、それはベストにもワーストにもなり得る要素を含んでいることである。
 また政治(家)や行政のトップの対応がワーストになる一方、末端の国民や現場における各種の努力がベストとして評価されていることである。
 後者の問題については、政治(家)や行政のトップの劣化(*2)と、それにも拘らず国民や現場の必死の努力による成果であり、これはこれで議論すべき大問題を含んでいるが、本コラムでは直接は採り上げない。
 前者の専門家の役割については、初期の段階ではその役割に効果があったにも拘らず、途中からトップの政治家や行政サイドが介入し、前面に出ることによりその意見が必ずしも通っていないことが本書で問題視されている。
 専門家といわれる人にもピンもキリもあり、往々にして広範な視野や社会的な常識に欠ける人もいることから、その意見を全て重用することは危険があるが、素人の政治(家)や一部の行政(官)が権力を持っているが故に介入し、科学的根拠を示さずに、専門家の示す正しい或いは望ましい道筋を曲げることには大きなリスクがあると思われる。
  
4.コロナ禍の場合は、人の生命と生活並びに政治・経済に直接に係わることから、このようなリスクは絶対に避けなければならないし、その失敗は数字や感覚等で直ちにかつ具体的に表れ、国民が認知できる。
 しかしその他の社会的制度の改正や変更への対応の場合、直接的な影響が直ちに生じることはないことから、それが悪いものであっても直ちに顕示されることがない。
 ただし、こうした形で変更されたり、修正されたりした制度の悪影響は、ボディーブローのように効いてきて、いつの間にかに良い制度や理想、さらには習慣が蝕まれてしまう危険性が非常に大きい。
 例えば先般の「公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する有識者会議」についても、その検討過程や結論について、こうした観点からしっかりチェックしないと、いつの間にかにか本来あるべき制度からみて遠くへ来てしまうことがあり得る。
十分自戒して注意すべきことであろう。

 *1 なお、著者は下記の出版物を参考に本書の日本の政策にかかわる部分
   (第6章、第7章)を執筆したと書いているが、これはこれで民間によるタイムリーで
    立派なリポートと思われるが、個人的には本書のほうが、執筆の対象範囲が広く、
    それにも関わらず、コンパクトでかつ分かり易く書かれているように思われ、
    推奨に値すると考えている。
    ・一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)著
     『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』
     (ディスカヴァー・トゥエンティワン、2020年)
 *2 著者は、「コロナ後の世界を生きるためには、官僚制度と官僚の質を
    向上させることが大事である」と歯に衣を着せず直言している。